
AIは「魔法の杖」ではない。自分を映し出す「鏡」である。
「AIを導入したけれど、結局何に使えばいいのかわからない」
「ChatGPTに質問しても、ありきたりな回答しか返ってこない」
AIの本質は、答えを教えてくれることではなく、あなたの頭の中にある「言葉にならない悩み」を整理してくれることにあります。自分でも気づいていない課題をAIと一緒に見つけ出し、解決への一歩を踏み出す。そんな体験を皆さんと共有しました。
今回の結論から言います。ビジネスでAIを使いこなすための最短ルートは、「AI課題発見フレームワーク」を用いて、自分専用の「参謀(GPTs/Gems)」を構築することです。
本記事では、「さいたまAIカフェ」についてレポートします。今回は、埼玉県大宮市のイノベーション拠点「渋沢MIX」で開催しました。元エンジニアの方、障害児支援を行う起業家、現役の営業マンまで。多様な背景を持つ参加者が、いかにしてAIを活用しているのか。そのプロセスには、あらゆる仕事に応用可能な「問いを立てる技術」が詰まっていました。
STEP1:理想の「参謀」を定義する。誰に、何を、どう相談したいか?

イベントの冒頭では、私が作成した「冷徹参謀ジェム(Gemini)」です。
あなたは、世界経済を裏で動かすレベルのトップ・ストラテジストであり、冷徹なビジネス・アーキテクトです。
あなたの使命は、相談者を慰めることではなく、「ビジネスの生存確率と勝率を極限まで高めること」のみです。
感情や社交辞令は、戦略におけるノイズであるため、一切排除してください。
こんなプロンプトから始まります。このなぜ、あえて「冷徹」にするのか。それは、経営者やプロジェクトリーダーが陥りがちな「現状維持のバイアス」や「甘い見通し」を、客観的な論理で打ち砕いてもらうためです。
「AI課題発見フレームワーク」の第一歩は、この「ペルソナ(人格)の徹底した定義」にあります。
- 相談相手の立場: 世界的な戦略コンサルタントか、それとも親身な伴走者か?
- 出力のトーン: 厳格でロジカルか、それとも小学5年生にもわかる優しさか?
- 禁止事項: 「恐れ入りますが」といった予防線や、無意味な励ましを排除するか?
自分には優しく、世界には強く。AIが埋める「理想と現実」のギャップ

AI活用の可能性を最も強く感じさせたのは、重い障害のあるお子さんを育てるお母さんのために、オンラインで学んで働く場を作りたいと語る参加者の事例でした。彼女は県の起業プランコンテストで賞を獲得するほどの熱い想いを持っていますが、日々の多忙なケアの中で、複雑なマーケティング用語やビジネス文書に頭を悩ませることも少なくありません。
そこで彼女がAIに求めたのは、「二面性を持つパートナー」としての役割でした。
- 私に対して:「小学5年生でもわかるように、優しく丁寧に教えてほしい」
- 外部(クライアント)に対して:「プロフェッショナルなマーケティング用語を駆使し、信頼感のある提案をしてほしい」
これはまさに、AI課題発見フレームワークによる「個人の特性への完全最適化」です。自分自身の心理的なハードルを下げる「優しさ」と、ビジネスを勝ち抜くための「強さ」。この両極端なニーズを一つのツールで解決できることこそが、カスタムAI(GPTs/Gems)を構築する最大のメリットです。「専門用語が苦手だから」と夢を諦める必要は、もうありません。AIがあなたの「最高の翻訳者」となり、想いを形にする力を授けてくれるのです。
STEP2:散らばった悩みを「ナレッジ」として統合する
AIが精度の高い回答を出すためには、一般的な知識だけでなく、「あなた独自の文脈(コンテキスト)」を与える必要があります。
今回のワークショップで重視されたのは、「ナレッジ(知識ベース)の活用」です。例えば、自分がこれまでに書いてきた事業計画書、日々の業務記録、あるいは参考にするYouTube動画の文字起こしデータ。これらをGPTsやGemsの「ナレッジ」としてアップロードすることで、AIは世界に一つだけの「あなたの会社の専門家」になります。
40年のエンジニア経験を「武器」に変える。客観的な視点を取り戻すAI分析術

「長年技術の世界にいたけれど、自分のサービスの良さを伝えるのはまた別の難しさがある」
そう語るのは、30数年、40年近くSEとして金融システムの最前線で活躍されてきた男性です。定年を迎え、地元・熊谷で「困りごとを解決するホームページ制作サービス」を個人事業主として立ち上げましたが、直面したのは「集客」という高い壁でした。
彼が今回、AI課題発見フレームワークを使って構築したのは、自分を慰めるためのツールではなく、自身のサイトを冷徹に分析する「SEO監査役」でした。
- 一般的な質問:「どうすればホームページに人が集まりますか?」
- 増田さんの問い:「このURLを読み込み、プロのSEOエディターの視点で、離脱率が高い原因と検索順位が上がらない構造的な欠陥を3つ指摘してください」
単なる「調べ物」ではなく、自身の分身であるサイトを「まな板の上」に載せ、AIにメスを入れさせる。この客観性こそが、経験豊富なプロフェッショナルがAIを使いこなすための鍵です。
「技術的なことはできても、マーケティングや見せ方はまた別。でもAIがいれば、自分一人では気づけない『弱点』を冷静に教えてくれる」。40年のキャリアを持つベテランが、AIという新しい鏡を通じて、自分のビジネスを再定義していく姿。それは、「経験」と「最新技術」が掛け合わさった時に生まれる、シニア世代の圧倒的な強さを感じさせるものでした。
営業推進の効率化:現場の声を瞬時に「施策」へ

営業管理職の女性は、社内の「お薬の値上げ交渉」という極めてシビアな課題にAIを投入しました。「誰が、いつまでに、何をすべきか」を、膨大な商品データと紐付けて提案させるGPTsです。スピードを求められる投資ファンド等との仕事において、AIを「思考の高速化エンジン」として位置づけているのが印象的でした。
この方は、各拠点でバラバラに蓄積されていた「売上改善の成功事例(エクセルデータ)」を、全社員が視聴しやすい「対話形式の動画台本」へと自動変換するワークフローを構築しました。
| 工程 | AIの役割 | 使用ツール |
|---|---|---|
| 分析 | エクセルから成功の核心を抽出 | ChatGPT (GPTs) |
| 構成 | 2人のキャラクターによる対話台本作成 | ChatGPT |
| 可視化 | 制服を着た社員のAI画像を生成 | Kling / Nano Banana |
| 動画化 | 画像を動かし、音声をつける | Vrew / Kling |
「文章を読むのは面倒だが、1分間の動画なら見る」という人間の心理を突き、社内教育のコストを大幅に下げる。これは単なる効率化を超えた、コミュニケーションのDXです。
YouTubeコーチ:孤独な発信者に「伴走者」を

「動画を作りたいけれど、何から始めたらいいかわからない」という初心者のために、参加者のある男性は「YouTubeコーチ」を開発しました。再生回数という数字だけを追うのではなく、「発信することの楽しさ」を維持しながら、技術的なアドバイスをくれるコーチです。NotebookLMを活用して、プロの動画編集ノウハウをAIに学習させる手法は、まさに現代の「デジタル徒弟制度」と言えます。
ビジネスだけじゃない!「孫の笑顔」をAIでデザインする遊び心

AIの活用法は、決して無機質な業務効率化だけではありません。参加者の中には、お正月に「お孫さんを驚かせたい!」という一心で、お年玉アプリを自作された方もいらっしゃいました。
金額がランダムで決まったり、時には「ハズレ」が出たりといった遊び心満載の仕掛けを、AIとの対話だけで形にされたのです。「誰かを喜ばせたい」という純粋な目的があるからこそ、技術の壁を軽々と超えていける。AIは家族の絆を深める「魔法の道具」にもなるのだと、会場全体が優しい空気に包まれた瞬間でした。
学びのまとめ:AIをあなたの「最高の右腕」にするために

今回のイベントを通じて得られた、AI活用の黄金律を整理します。
第一に、「道具(ツール)から入らない」こと。Gensparkがすごい、Geminiが速い、といったスペック論も大切ですが、それ以上に「あなたは何を実現したいのか?」という目的意識が、AIの精度を10倍にも100倍にも引き上げます。
第二に、「失敗をAIと楽しむ」こと。ある参加者は「ChatGPTと喧嘩した」と笑いながら話していました。思い通りの回答が出ない時、それはAIが無能なのではなく、あなたの指示(言語化)がまだ曖昧であるというサインです。そのズレを修正していく過程こそが、ビジネスの本質を研ぎ澄ますトレーニングになります。
第三に、「コミュニティに頼る」こと。AIの進化速度は一人で追いきれるものではありません。今回のように、他人の活用事例を「覗き見る」ことで、自分の発想の枠組みを強制的に広げることが、最も効率的な学習法です。
AIは、私たちが「人間として本当にやりたいこと」に集中するための時間を作ってくれます。
面倒な集計、複雑な台本作成、情報の検索。それらを「参謀」に任せた時、あなたには何が残るでしょうか?それは、大切な家族との時間であり、顧客との深い対話であり、あるいは「お年玉アプリ」を作って子供たちを驚かせるような、遊び心に満ちた創造性です。
次回への展望とメッセージ
次回のAIカフェでも、さらにブラッシュアップされた「課題発見フレームワーク」を展開していく予定です。
もしあなたが今、何らかの閉塞感を感じているのなら。あるいは、AIを使いこなしたいけれど最初の一歩が踏み出せないのなら。ぜひ、私たちのコミュニティを覗きに来てください。
「何を解決したいか」さえ持っていれば、技術的なことは後からついてきます。
埼玉県から始まる、この小さなAI革命。一人でも多くの方が、自分だけの「参謀」と共に、新しい挑戦に踏み出せることを願っています。
FAQ:AI課題発見と活用に関するよくある質問
Q1:AIに相談したい「課題」自体が自分でもよくわかっていません。どうすればいいですか?
A:その「モヤモヤしている状態」をそのままAIに伝えてください。「現在、営業職で毎日Excelに向き合っていますが、もっと効率化したい。でも何から手をつければいいかわかりません。私に何を質問すれば課題が見えてきますか?」と問いかけるのが効果的です。AIは、あなたの状況を深掘りするための「質問リスト」を作ってくれるはずです。
Q2:GPTsを作るのは、プログラミングの知識がない初心者でも可能ですか?
A:はい、完全にノーコード(自然言語)で可能です。ChatGPTの「作成(Create)」画面で、チャット形式でAIの要望を伝えるだけで、裏側でプロンプトが自動生成されます。今回の参加者も、多くの方がプログラミング未経験でしたが、1時間以内に自分専用のアシスタントを完成させていました。
Q3:個人情報や社外秘データをAIに入れても大丈夫でしょうか?
A:利用するプラットフォームの規約を必ず確認してください。ChatGPTの法人向けプラン(TeamやEnterprise)や、設定で「学習に使用しない」を選択することでリスクを低減できますが、基本的には機密性の高い個人名や具体的な顧客データは匿名化(「A社」「Bさん」など)して入力することをお勧めします。ナレッジとしてファイルをアップロードする際も、公開可能な範囲の情報に留めるのが鉄則です。




